30代で日本人の9割が歯周病にかかっていると言われています。
患者さんはたいてい、歯が痛くなってから歯科医院に行きますが、その時点でかなり歯周病が進行しています。そのままほうっておくと、あごの骨がとけて歯が抜け落ちてしまうおそろしい病気なのですが、歯周病は痛みがないまま進行するから、自分で気付きにくいのです。
この歯周病について正しく理解している歯科医が少ないために、日本で歯周病が蔓延してしまったのだと、私は思っています。
「歯周病治療は歯科衛生士の仕事」と、自分では歯周病について学ばない歯医者
保険点数のために患者さんを非常識なほど通わせる歯医者
患者さんの要求に合わせて歯を抜かず、間に合わせの治療で事なきを得たと勘違いしている歯医者(その間にも、患者さんの歯周病は進行していきます。)
健康な歯を削ってブリッジにして、結局歯ぐきの健康も噛み合わせを崩壊させてしまう歯医者など、
考えられないような治療をする歯医者が後を絶ちませんし、患者さんの口を診せていただいて、驚くことがよくあります。
歯は、歯ぐきによって支えられています。
どんなに豪華で立派な家を建てても、土台がしっかりしていなかったら、すぐに家が傾き、ちょっとした事でつぶれてしまいます。歯も同じで、どんなに高価なかぶせものや矯正治療やインプラントをしても、土台である歯ぐきが歯周病で健康でなかったら、歯を支えることができずに崩壊してしまうのです。
全国的に、虫歯の患者さんは減ってきていますが、歯周病はなぜか減る気配がありません。減るどころか、かつては中高年以上がほとんどだったのに、低年齢化(30代)が進んでいます。
虫歯が減った要因には、フッ素やキシリトールが広まったことが挙げられます。でも、歯周病はこうした外側からの予防が難しく、経口感染をしやすいこと、菌が死なないことなどからどんどん広がっていきます。また、歯周病菌は空気を嫌うため、歯と歯ぐきの間のなるべく空気がないところに住み着いて、どんどん境目をもぐるように繁殖します。痛みのような自覚症状もなく進むため、気付いたときにはかなり進行していた、ということもよくあります。
信じがたいことですが、中には、目先の高額な治療費に目がくらんで、歯周病を治さずに自費治療をすすめる歯医者もいます。患者さんも普通はそんな知識はありませんから、歯周病という自覚がないまま、見た目だけきれいな歯になって喜んで帰るのでしょうが、数年後の口の中の状態を考えると背筋が寒くなります。
まともな歯科医なら、患者さんが歯周病かどうかはすぐに分かります。そして、今、歯周病を治療せずに新しいかぶせ物をしたり矯正やインプラントをしてしまったら、1年後にどんな状態になるかという予測もつきます。
私は、患者さんにうるさいほど、「歯周病をしっかり治しましょう」と言います。
たまに、「すぐに審美治療に入ってほしい」「痛くないのに、歯周病なんて治してくれなくていい」と言われることもあります。知識がなければ、今のところ痛くもかゆくもない歯周病(痛みもかゆみもないまま進行するから怖いんですけどね)を治療するなんて、お金が余計にかかるし、面倒だとも感じるでしょう。
そんな風に、歯周病の治療が面倒で通わなくなってしまった患者さんが、5年後、どうしようもないほどひどい状態になって、「何とかしてください」と来院されたことがあります。でも、歯周病が進行しすぎてどうすることもできず、その方は結局、総入れ歯となってしまいました。
その一方で、メンテナンスに協力してちゃんと定期的に来院してくださった患者さんは、多少歯周病が進んだとしても、最小限で済んでいます。自分の歯をたくさん残すことができますし、それだけ体に優しい、快適な生活が送れるということです。本当に、人生の質が変わると思います。
私には患者さんの1年後の歯の状態が見えますから、歯周病を治さないまま、くさいものにふたをするような治療はできません。「今、見た目がきれいになりさえすればいい」じゃなく、「今も、1年後も、10年後も、きれいでちゃんと噛める歯を保つために」、少しの手間を惜しまずに、患者さんの本当の健康を目指して治療をしています。
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