2006年の5月、大好きだった祖母が血液の病気で入院しました。
なんとか1週間でも1日でも長生きしてほしいと願っていたのですが、医師からは、「あと2週間持つかどうか・・・」と宣告を受けました。
せめて安らかに最期を迎えさせてあげたい、と思っていたにもかかわらず、祖母の歯ぐきが腫れて「痛い痛い」と苦しがる毎日でした。本当に、見ているのもつらかったです。
私は歯科医です。祖母の歯ぐきの痛みだけでも取り除いてあげたかったのですが、祖母の体力がほとんどなかったので、歯の治療を受けさせることはできませんでした。こうなってしまう前に、少しでも元気なうちに、もっと強く言ってでもちゃんと歯の治療をするべきでした。
その時の私が入院中の祖母にしてあげられたのは、歯のクリーニング。それだけです。
こうなってしまったけれど、今の自分にできることを最大限やろうと、私は歯科医師の仕事を続けながら、休みの日やあいている時間を利用して、病院に通ってPTC(プロフェッショナル・トゥース・クリーニング)をしました。
毎日毎日医院に通い、数日経ったころ・・・歯ぐきの腫れが次第に治まり、祖母も、痛みがなくなってきたと言うのです!祖母にかすかな笑顔が戻り、少し顔色もよくなったように思えました。何より、以前より穏やかに眠れているようでほっとしました。
その後、少しずつ回復して、入院してからずっと、「家に帰りたい」と言っていた祖母の願いも叶えてあげることができました。
同年の9月、残念ながら祖母は他界してしまいましたが、祖母の優しい笑顔が今も心に残っています。とてもつらく寂しい別れですが、最期の最期まで、私にできることはやったという気持ちが私を支えてくれています。祖母がくれた思い出に、感謝の気持ちでいっぱいです。
祖母の死を境に、私の中にある心境の変化がありました。
それまでも、患者さんに最高の治療を提供していたという自負はあります。でも、それに加えて芽生えたのが、「もし、この患者さんが身内だったら・・・」という思いです。
「患者さんのために」というきれいな言葉は、どの歯科医も言っています。どんなホームページにも書いてあります。でも、それを嘘偽りなく、本心で思える歯科医が、どれだけいるでしょうか?
私も祖母の死を経験するまでは、まだまだその深い意味に気付いていなかったかもしれないと、今思うのです。
「目の前にいる患者さんに、今、自分ができることを全力でする。」
患者さんのためというばかりでなく、これが、自分が一番気持ちのいい生き方だと気付いたのです。
自分が一番気持ちのいい生き方をして、患者さんに最高の歯科医療を提供すること。これまで当たり前のように受けていた患者さんの笑顔や「ありがとう」という言葉が、私にとって最高のプレゼントだったんだと、歯科医15年目にして心から感じるようになりました。
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